前立腺がんを経験して

中高年になると、徐々にがんに罹るリスクが増えてきます。

そういう私も、実は、前立腺がんになった経験があります。

前立腺がんのイラスト

前立腺がんは男性特有のがんですが、検査技術の進歩から初期段階で発見されることが多くなりました。
そのこともあって、前立腺がんの罹患率は、男性では胃がんに続き第2位になっています。(2016年統計)
前立腺がんは、高齢になると急激に罹患率が高くなるので、私たち中高年は特に気を付けなければいけません。

私の場合は、幸いにも発見が早く、前立腺の摘除手術を受け、その後の経過もよく、再発も転移もなく現在に至っています。

このページでは、私の実体験をもとに、前立腺がん治療について参考になる情報をお話ししたいと思います。

 

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私の前立腺がん闘病記

がんが発見されるまでの経緯

人間ドックが契機

私は、40歳を過ぎた頃から、ほぼ毎年、人間ドックを受診していました。
人間ドックでは、血液検査の項目の中にPSA検査というものがありました。これは、血液中にある前立腺に特異的なタンパク質の一種「PSA」の値を測定し、その数値が基準より高ければ、前立腺がん、前立腺肥大、前立腺炎などの確率が高くなるというものです。
50歳頃にその数値が若干高くなっていることを指摘され、精密検査を受けることになりました。
検査の結果、がんは発見されませんでしたが、前立腺肥大があるということで、継続観察を続けることになったのです。

検査数値が変動

前立腺肥大の薬を処方され、定期的に泌尿器科に通うことになり、PSA数値の継続観察も続けていました。
尿の切れが悪く、残尿感もありましたが、何年も状態は安定していました。
しかし、50歳半ばになって、PSA数値が急激に上昇し始めたので、その原因を突き止めるために(特にがんの可能性を見極めるために)、触診やMRI検査などを行いましたが、がんは発見されず、PSA上昇の原因が特定できずにいました。

組織検査で確定

さらにPSAの数値が上昇したため、「たぶんがんではないだろうが、念のために」ということで、前立腺の組織を採取して細胞レベルの検査を行うことになりました。
そして組織検査の結果、採取した8カ所の組織のうちの4カ所からがん細胞が見つかり、細胞の悪性度も中くらいということで、私は、思いもしなかった「がん患者」になったのです。

治療方法の選択

考えられる治療方法

前立腺がんは、進行が比較的ゆっくりで、悪化するまで相当の期間を要するのが一般的です。このようにおとなしいがんなのですが、症状が進んで、いったん他臓器へ転移すると、一気に生存率が悪化します。
私の場合も、他に転移しているかどうかが、今後の治療方針を決める重要な要素でした。
それからすぐに、PET-CTをはじめさまざまな検査を行って体中のがん組織を調べました。特に前立腺がんはリンパ節や骨に転移しやすいということで、骨シンチグラフィーという特別な検査も受けました。
その結果、他への転移はないと診断され、治療方法の確定を急ぐことになったのです。

前立腺がんには、手術療法放射線療法ホルモン療法などの治療方法があります。また、進行が遅いことから、監視療法といって積極的な治療をせずに経過観察を続けるという方法もあります。
この中からどれを選択するかということですが、初期のがんほど摘除手術をすすめられるそうです。また、私はまだ年齢的にまだ若かったので、十分余命があることを考えれば、放射線療法やホルモン療法でがん細胞を温存させるよりも、摘除手術が最適だと判断されました。

ロボット手術の選択

前立腺の摘除手術も、開腹手術、内視鏡による手術、そして先端のロボット手術があります。
幸いにも近くの大学病院でダヴィンチという手術支援ロボットを使った手術が前立腺がんの摘除手術の成果を上げ始めていた頃で、加えてロボット手術が保険適用にもなったという時期でもあったので、ロボット手術に挑戦することになりました。

ロボット手術

ロボット手術のメリットは、開腹せずに数か所の小さな穴からロボットアームを差し込んで行う手術なので、身体に負担が少なく術後の回復も早いこと、それから、ロボットの動きは人間の手より精密で、手振れも起きないことから、正確性が期待できることでした。
ただ、通常の手術より手術時間が長く、長時間にわたって頭部を下にした状態を維持しなければならないことから、眼圧や脳内の圧力が高まり、緑内障の人や脳動脈瘤を抱えている人には危険ということで、それらの検査も徹底的に行いました。

そして、晴れて手術のゴーサインが出たわけですが、人気の治療方法ということで、4か月待ちという説明がありました。
いよいよ手術の日が決まり、人生初の手術へ。

手術室では、すぐに全身麻酔をかけられ、6時間をかけて手術が進み、見事に前立腺を完全切除することができました。

手術後の経過

入院中の状況

手術後の入院期間は11日間でした。
前立腺を切除して尿道を繋ぎ直したため、尿道がくっつくまでは膀胱から管が通されていていました。尿が垂れ流しの状態でつらかったですが、それも1週間で外されました。
それよりも辛かったのは、全身麻酔の影響か手術のショックの影響かわからないですが、入院中は、全く食物を口にできないほど気分が悪く、常に強烈な吐き気をもよおしていました。退院の3日前にやっと体調が戻り、食事を口にできたときは、涙が出るほど嬉しかったのを覚えています。

退院後の生活

退院後は尿漏れパッドをしていましたが、それも1か月くらいで完全に外すことができて、それ以来、普段と何ら変わらない生活を続けています。

前立腺を取ったことで、これまで膀胱側と前立腺側の両方の筋肉で尿を止めていたのが膀胱側だけになり、尿漏れが心配でしたが、取り越し苦労でした。
担当医から「肛門をキュッと閉じるような運動をすると、膀胱の筋肉も鍛えられる」と聞き、トイレに行くたびにその運動を繰り返していることが、よい結果を生んでいるのかもしれません。

手術によるその他の機能の変化ですが、前立腺といっしょに精巣や勃起神経も切除したため、男性としての機能は完全に失われました。
勃起神経は温存する方法もあったようですが、手術の完璧性を期するためには、仕方なったのかなと思います。
性交渉はできない身体になってしまいましたが、特に男性としての感覚自体に変化はありません
日常の生活には何ら支障がなく、機能を失ったことによるストレスや虚無感などもありません。

手術後3年が経過した現在の状況ですが、手術前とほとんど変わりない生活を送っています。
あえて変わったことをあげると、少し頻尿になったこと、小便のあとに残尿感があること、あぐらをかいた状態で下半身に力を入れたり力んでおならをしたときに少し尿漏れがしやすくなったことくらいです。
患者によっては、激しい尿漏れが続いてパッドが離せない方もいらっしゃるようですが、私の場合は、ロボット手術の恩恵もあって、術後の経過が順調すぎるほどで、幸運だったのかなと思います。

前立腺がんになって良かったこと

「がんになって良かった」なんて言うと、がんで苦しんでおられる患者やご家族の方にとても失礼ですが、私は前向きにとらえています。

まず、自分の身体のケアに気をつけるようになったことです。常に身体と対話しながら生活するようになりました。

次に、前立腺を取ったことで、気分的に身軽になったような気がします。
どこかで聞いたことがありますが、高齢になると前立腺は邪魔な臓器になるらしく、この臓器ががん以外にもいろいろと悪さをして、男性の健康を害する一因になっているとか。しっかりとした医学的な証拠はないのでしょうが、私はそれを信じることにしています。

「前立腺を取ったから健康で長生きできている」と言える生活を送りたいと思っています。

がんで苦しまないために

私は、人間ドックが足掛かりとなって、全く自覚症状がないのにもかかわらず、がんを発見することができました。
もしも、定期的に人間ドックを受けずに、PSA検査もしていなかったら、今もがん細胞を抱えたまま平然と生活していたと思うと、ぞっとします。

がんで苦しまないためには、人間ドックや定期健康診断を怠らず、また、少しでも異常な数値が発見されたら、「大丈夫だ」と言って面倒がらず、必ず精密検査を受けることです。そして、早期発見することが最も大切なことです。

私にがんが棲みついた本当の原因は、食生活かストレスかなと思っています。
添加物の多い食事、偏った食事、こういった食生活が、知らず知らずのうちにがんができやすい体質にしてしまったのかもしれません。
また、ストレスの方は、性格的にストレスに弱いのはどうしようもないことですが、今は、何とか楽天的に暮らして、物事にあまりこだわりを持たないようにしています。

母も、私と同時期にがんの宣告を受けました。母の場合は末期がんだったため、半年後にこの世を去りました。
それまで、私の家系は誰もがんになった親族はいなかったので、母も私も自分は絶対にがんにはならないとたかをくくっていました。
そうした油断は大敵です。がんは誰でもなりうるのです。